特許って、何の役にも立たなくない?」のところで、技術を独占するためには特許が必要、という話をしました。しかし特許は、何でもかんでも独占すればいいというものでもありません。特許を使って技術を独占したところ、ひどい目に遭ってしまった、という場合もあります。以下に2つ例を挙げてみます。


① 特許を他社にライセンスせず独占販売を行っていたところ、競合各社が特許を回避した類似粗悪品の製造販売を開始したことで、市場全体として製品の信用が地に落ちてしまった例

製品Aの中堅メーカーであるX社は、製品Aの使い勝手を飛躍的に高める新方式Bを実現するための具体的な技術Cを開発し、特許も取得した。そして、技術Cを適用した製品Aの製造販売を独占的に行っていたところ、製造能力・ブランド力に勝る競合各社が技術Cを回避した類似品の製造販売を始めた。類似品は市場を席巻したが、技術Cを具備しない粗悪品であったために次第に評判を落とし、新方式B自体がユーザに忌避されるようになってしまった。結果、技術Cを適用したX社の製品Aも売れなくなり、X社は製品Aの事業から撤退することになってしまった。

② 自社製ソフトウェアをオープンソースに組み込まず独占する道を選んだが、結局、特許権行使できなかった例

ソフトウェアメーカーであるY社は、自社製のソフトウェアAについて、複数の特許を取得している。あるとき、ソフトウェアAをオープンソースに組み込まないかと誘われたが、そうするとソフトウェアAを無償で頒布しなければならなくなり、特許権も行使できなくなるので、オープンソースに組み込まず独占販売する道を選んだ。しかし、すぐに第三者がソフトウェアAと同様の機能を有するソフトウェアを作り、オープンソースに組み込んでしまった。そのソフトウェアはY社の特許を侵害している可能性もあったので、Y社は利用者を特許権侵害で訴えることも考えたが、その利用者の1つがY社の得意先であったため、侵害訴訟の提起は断念せざるを得なかった。 最終的に、Y社はソフトウェアAの事業から撤退することになってしまった。


①の例では、X社は、独占販売により得られる利益と、競合各社に特許を利用させる場合の利益(ライセンス料+先行者利益)とを正しく評価し、比較したうえで戦略を立てるべきでした。また、②の例では、Y社は、自社の事業環境(ソフトウェアAの模倣可能性、特許権行使の可否など)を正しく評価し、特許で本当に独占できるのかを見極めたうえで戦略を立てるべきでした。

「正しく評価」といっても、それは簡単なことではありません。結果的に間違った判断をしてしまう場合もあるでしょう。しかし少なくとも、「特許を取ったんだから独占しなくちゃ損」のような短絡的思考だけは避けなくてはなりません。特許を取った、ということは、その特許技術に関しては他社に対して優位に立っているのですから、独占の他にも利益を得る道はあるはずです。自社の特許をどう使っていくか、弊所と一緒によく考えていきましょう。

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